おやのいとよくかしつきける人のむすめありけり女のするさえのかきりしつくしていまはふみよませんとてはかせにはむつましからん人をせんとてことはらのこの大學のしうにてありけりことはら成けれはうとくてあひ見すなとありけれとしらぬ人よりはとてすたれこしに几張たてゝそよませけるこのおとこいとおかしきさまを見てすこしなれゆくまゝにかほをみえ物語なともして文のてといふものをとらせたりけるをみれはかくひちして一首をなんかきたりける
なかにゆくよしのゝ河はあせなゝんいもせの山をこゑて見るへく
とありけれはかゝりけるとこころつかいしけれとなさけなくやはとて
いもせ山かけたにみえてやみぬへくよしのゝ川はにこれとそおもふ
またおとこ
にこるせはしはしはかりそみつしあらはすみなんとこそたのみわたらめ
をんな
ふちせをはいかにしりてかわたらんとこゝろをさきに人のいふらん
おとこ
みのならんふちせもしらすいもせかはおりたちぬへきこゝちのみして
かくいふ程に人にくからぬよなれはいとけうとくなかりけりしはすのもちころ月いとあかさに物語しけるを人見てたれそあなすさまししはすの月夜ともあるかなといひけれは
春をまつ冬のかきりとおもふにはかの月しもそあはれなりける
かへし
としをへておもふもあかしこの月はみそかのひとやあはれとおもはん
かくいふほとに夜ふけにけれは人うたてみんものとていりにけりおとこはさうしにとみにもいらてうそふきありきけりさてあしたにひさしくふみよませさりけれはちゝぬしあやしくたかむらか見えぬかなといひてよひにやるにおとこきてれいの文かきあつめてをしへけるまゝになんこの女のみこゝろにいりてひかことをのみなむしけるかうをしふる中にかくひちしてかやう初のふみはひかことつかまつるらんこのころは物おほえすそや
きみをのみおもふこゝろはわすられす契しこともまとふこゝろか
かへし
はかせとはいかゝたのまんひとこしれすものわすれする人のこゝろを
又おとこ
ふみきゝてろつのふみはわするとも君ひとりをはおもひもたらん
かくてこのおとこはてふくみをそつねにつくりかへけるさてこの女願ありてきさらきのはつむまにいなりけりともに人おほくもあらておとな二人わらは二人そありけるおとなはいろいろのうちきふたりはおなしいろをなんきたりける君はあやのかいねりのひとへかさねからのうすものゝさくらいろのほそなかきてはなそめ